ダラス発、 2011年7月25日 - テキサス大学サウスウェスタン医療センターの研究者らは、末期前立腺癌がこれまで考えられていたのと異なるホルモン経路によって進行が促進されていることを実証し、進行前立腺癌に関する新しい薬剤の標的を絞り込んだ。
テストステロンが前立腺癌の進行を刺激することは一般に知られているが、標準ホルモン療法に抵抗性を示す進行前立腺癌は、実際にはその男性ホルモンを回避する経路によって進行が促進されていると、この研究の上級著者である内科学助教授Nima Sharifi博士1)が全米科学アカデミー会報誌の中で述べた。
「私たちの知見は、この疾患についての人々の考え方を大きく変えるでしょう」と、テキサス大学サウスウェスタン医療センターのハロルド・C・シモンズ総合がんセンター(Harold C. Simmons Comprehensive Cancer Center)の研究者であるSharifi博士は言う。「前立腺癌はテストステロンによって促進されると一般に想定されていましたが、実際の経路はそれを回避して最も強力なホルモンにつながっています。私たちはこの経路の存在を動物モデルと患者の双方で発見し、これらの抵抗性をもつ癌の進行が明らかにこの別の経路で促進されていることが証明されました。」
前立腺癌は男性で最も多くみられる癌であり、米国人男性の癌による死因として、肺癌に次いで多い。毎年約22万人もの男性が新たに前立腺癌と診断され、32,000人がこの研究の焦点である転移性癌を発症し、死亡に至る。
進行前立腺癌では、進行を促進しているテストステロンがより強力なホルモンに転換し、それが癌の進行を加速させる。標準治療は癌のテストステロンを除去することであったが、癌自体がアンドロゲン、すなわち男性ホルモンを産生するため、結局ホルモン除去療法に抵抗性を持つようになる。
テキサス大学サウスウェスタン医療センターの研究者らは本研究で、前立腺癌の細胞株、マウスモデル、および患者の腫瘍から採取した新鮮組織を解析した。結果は新しい薬剤による療法は、ホルモン生成プロセスの初期にホルモン産生を開始する酵素を標的とする必要があることを示唆した。
「今考えられることは、新しい薬剤の標的が経路をもう一段階遡ったところにあるということです」とSharifi博士は言う。「これは、正確な経路の地図を描いているようなものと言えます。川をせき止める前に、川がどの方向へ流れているか解明しなければなりません。」
またこの知見は、ホルモン療法への応答性と抵抗性に関する正確なバイオマーカーを研究者が開発する手助けとなり、結果的に前立腺癌がなぜ、どのようにして抵抗性を得るかの解明に役立つと博士は述べた。
本研究はハワード・ヒューズ医療研究所(Howard Hughes Medical Institute)、前立腺癌財団(Prostate Cancer Foundation)、米陸軍医学研究司令部(U.S. Army Medical Research and Materiel Command)、バロウズ・ウェルカム基金(Burroughs Wellcome Fund)、トランスレーショナル・リサーチにおけるチャールズ・A&エリザベス・アン・サンダース・チェア(Charles A. and Elizabeth Ann Sanders Chair in Translational Research)の支援を受けた。
本研究に参加している他のテキサス大学サウスウェスタン医療センターの研究者は、博士課程修了後研究者である筆頭著者Kai-Hsiung Chang博士、内科学研究助手Rui Li博士、研究員Mahboubeh Papri-Zareei氏、放射線学教授Lori Watumull博士、Simmons Cancer Center所属の臨床科学准教授Yan Daniel Zhao博士、元内科学教授Richard J. Auchus博士である。
テキサス大学サウスウェスタン診療センターの癌診療業務について詳しくは、http://www.utsouthwestern.org/cancercenterを参照されたい。
1) http://www.utsouthwestern.edu/findfac/professional/0,2356,99071,00.html
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翻訳:丸野 有利子
監修:辻村 信一(獣医学/農学博士・メディカルライター)
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